DEPPA少年の日記

某テレビ局の会社員。27歳。「小説だからこそ本当のことを書ける」という小説家の言葉を参考に、あえて匿名でブログを書いています。28歳の誕生日までのカウントダウン方式を採用。

207日(「万引き家族」を観て考えたこと。)

カンヌでパルムドールを受賞した是枝監督の「万引き家族」を観てきた。家族とは何かを考えさせられる、心の中で後を引く映画。

宇多丸さんのムービーウォッチメンを先に聴いてから今回は劇場へ足を運んだ。ネタバレこそないけれど、どういう内容で、どういったところが見どころなのかはある程度、把握していたつもり。

ただあらためて観た後にもう一度ムービーウォッチメンを聴くと、聞き流してしまったところが重要だったことがわかる。ここがおもしろかったりする。二度おいしい。同時に、映画について語ることそのものについて考えた。

たとえば宇多丸さんは「映画館へ行ってもらうための評」というスタンスをずっと取っている。ただ監視報告(感想を言うだけ)をするわけではなく、どんな悪評でも、「映画館で自分の目で確かめろ」と着地する。

そして内容でいえば、宇多丸さんは映画の演出について、ていねいにふれる。たとえば、今回でいえば、寓話的な画を撮るための照明の工夫や衣装、家の中のセット美術への言及や、安藤サクラのラストの圧巻の泣き演技シーン。是枝監督が子役の起用、足のカットの見せ方などなど。

おもしろいなあと思うのが、「たまむすび」で語っていた町山さんの解説。町山さんが素晴らしいのは、膨大な知識はもちろんのこと、テーマをわかりやすく説明するために見立てをすること。

今回町山さんは是枝監督の過去作品の一貫したテーマにふれた上で、「万引き家族」を落語的世界観の見立てで解説してみせた。これを聞いたとき「ああ、そうだ!」と膝を打った。

たしかにたとえば寄合酒という落語は、乾物屋からものを盗んで各々が集まっておバカな宴会をする。長屋の話もしかり、初天神しかり。

現在の法の下で考えたときに、有罪と無罪で二分できない、こぼれてしまう世界がある。そこに人情が介在するという話はまさに落語的だ。

そして「万引き家族」をより社会学的なテーマに引き寄せて語っていたのが宮台真司氏。ラジオの「デイキャッチ」でいくつかのパートに分けて解説していたが、こちらもさすが。

システムに組み込まれて、なんとなく法のルールの下、正しく生きている「つもり」になっている。そんなわれわれへの問題提起でもあると。「勧善懲悪への否定」というのはなるほどと思った。まさに落語家の立川談志に言わせれば「落語とは業の肯定」だ。完全一致。そして家族とは自明ではないということ。

親は、親であると意識しなければ、その役割を全うすることはできない。心で繋がった他人同士の家族が、どんな血縁関係のある家族よりもそれらしく生きていても、正しさをふりかざせば、その家族は崩壊する。

自分のこれまでの人生とこれからについて考えたのと同時に、それぞれのスタンスで、自らの言葉でパブリックの場で映画を語る方たちに敬意を表する。こういう人のおかげで、映画は深くなり、より味わい深くなる。