326日(「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」を読んで。)
「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」を読んで。
■感性の重要性とは
企業における意思決定には「アート」「クラフト」「サイエンス」の観点があるという。そのなかでアートの要素は、なしがしろにされることが多かった。なぜなら「アカウンタビリティ」がないから。サイエンスは数字。数値化、情報の可視化は説明ができる。「直感で思った」という感性的なアプローチは、論理や理性の数字、サイエンスが立ちはだかり、主張することがなかなか難しかった。
しかし、ユニクロがクリエイティブの領域で佐藤可士和氏に大きな権限を与えているように、美のガバナンスを重要視する流れがきている。なぜか。分析的で論理的な情報処理だけでは、現在の市場において差別化が難しくなってきている。方法論としての限界だ。
どれだけ新しい商品を開発したとしても、再現性のあるイノベーションは、コピーされるおそれがある。その一方で世界観やストーリーはコピーされにくい。そういった領域こそ、経営者のビジョンや美意識に他ならない。だからこそ、美意識や審美眼を鍛える経営者が増えているという。
■顧客の声の考え方
企業活動において顧客をどう位置づけするかを個人としてこれまで考えてきた。しかしなかなか、これといった正解がないと感じていたなかでマツダの例は新鮮だった。マツダはそもそも日本的美意識をデザインに盛り込むとして、これまで日本カー・オブ・ザ・イヤーの受賞はじめ、収益でも改善をみせている。
そのマツダにとって、顧客の声は、一応参考にする程度なのだとか。お客さまを大事にするのは大前提、しかし顧客の声に応えることを第一義に掲げてしまうと、デザインは顧客の声に依存してしまう。
つまり、センスの良い顧客の声からはセンスの良い商品が生まれるが、当然その逆もあるわけである。顧客に好まれるデザインではなく、顧客を魅了するデザイン。そこにはクリエイティブを統括するひとりの力が大きい。美のガバナンスを機能させる。ある意味、最近読んだデザイン思考とは逆の発想だ。
本書には、デザイン思考とは、問題解決の手段であって、創造の手法ではないという。たしかにそうかもしれない。ぼくが読んだデザイン思考の入門書には、とにかく観察することを大事にしていて、たとえばカフェなら顧客が入店から店を出るまでの観察を通じて行動をデザインしていく。そこに課題があれば、アイデアで解決していく部分もあるのだが、顧客ありき。このあたりはかなり参考になった。
文学や詩を学ぶ重要性が説かれていて、こちらも刺激になった。いい本に出会えた。