DEPPA少年の日記

某テレビ局の会社員。27歳。「小説だからこそ本当のことを書ける」という小説家の言葉を参考に、あえて匿名でブログを書いています。28歳の誕生日までのカウントダウン方式を採用。

映画「人生フルーツ」を、観た。

 

 

映画「人生フルーツ」を観た。

愛知県にお住まいの90歳と87歳のご夫婦の暮らしをとらえたドキュメンタリー作品。観賞後、心温かくしてぼろぼろ泣いていた。かつてない映画体験だった。つばたご夫妻はもちろん東海テレビにも感謝したい。

「泣いた」と述べたが、この映画にはお涙ちょうだい演出はいっさいない。数年にわたってカメラがおふたりの暮らしをおさめ、そこからつむぎだされている。一定のリズムなのだが、それゆえに暮らしに感情移入するのだ。まるで自分の祖父母のように愛おしく、また尊敬の念をいただくようになる。

それは「こんな暮らし、いいなあ」と多くの方に思わせる魅力があるということ。おふたりは自分の時間を大切にされている。コツコツとずっとこれまで豊かに生きてきている。そういう意味では暮らしであって、隠居という言葉は合わない。理想郷としての田舎暮らしでもないのだ。

ぼくのなかのロールモデルは白州次郎のカントリー生活だった。細川護煕氏の晴耕雨読な生活は素敵だと思う。良寛のように隠居して、自分からは赴きはしないが、相手がくればおもてなしをする、そんなような人生に憧れがあった。ライムスター宇多丸さんが言うところのカタカナの「アコガレ」だった。

理想と現実という言葉があるが、ぼくの場合は理想という点でカントリーの暮らしを欲していた。経済優先主義のなかでの反動かもしれない。そういう刹那的な想いではなく、現実の延長にある豊かな暮らしを実践したのが、つばたご夫妻。だから、ぼくは引き込まれた。

ふたりの関係性が素敵だ。60年いっしょにいる。なんでも理解している。その上でふたりとも「です・ます調」を使う。「おいしい」と言う。「おいしいと言ってもらえたら本望です」と英子さんが言う。台湾に行ったとき。修二さんは「彼女はぼくの最高のガールフレンドです」と言う。

ふたりは何でも手づくりだ。障子もそう。ものもできるだけ長く使う。そこに修二さんの言葉があった。「なんでも自分でやるとめんどうで時間がかかるけれど、だからこそみえてくるものがある」と。

修二さんは建築家だ。庭に森をつくるなど一貫して人間らしい暮らしの理想を持って仕事に取り組まれてきた。劇中では著名な建築家の言葉がインサートされる。フランク・ロイド・ライト 『長く生きるほど、人生はより美しくなる。 』。樹木希林さんがナレーション、心に響かないわけがない。

せっかちなぼくは、いまからそんな暮らしをしたいと思ってしまう。「ダーリンは70歳」で高須さんが西原さんに話していた言葉を思い出した。「これまでの経験があるあなただからこそ、魅力があるのだ」と。人生の近道に意味はないのだ。

いまできること、それはゆっくり、こつこつ生きること。これからおふたりが出された本も読んでみようと思う。つばたさん、ありがとう!