DEPPA少年の日記

某テレビ局の会社員。27歳。「小説だからこそ本当のことを書ける」という小説家の言葉を参考に、あえて匿名でブログを書いています。28歳の誕生日までのカウントダウン方式を採用。

【読みました】「渋井直人の休日」から考える「自分の好き」を極める人生

渋谷直角「渋井直人の休日」を読みました。

今回は、仕事では成功している中年の独身デザイナーにスポットが当たっている。オシャレで人望もあり、好きなものがたくさんあってすぐ買える。それも幸せな人生なんだけど、独身でやっぱりさみしい部分もある。オジサンになったといはいえ、女性からの見え方も気になるし、可能性も感じていたい。そんなかわいげのある小綺麗なオジサンが主人公。

読み終えて思ったのは、もっと男の性(サガ)の汚いところや、いろんな感情が渦巻く現代の東京の底深さを通じて、「幸せ」とは何かを提示するようなものかと思っていた。「奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール」も読んでいたので。

オジサンの性というよりは、日常から醸し出される哀愁のような部分が丁寧に描かれています。たとえば
嗜好でいえば、どんな音楽が好き、この食器のブランドが好きで、小金があるので散財したり。ちょっとした毎日が中心だ。これまでと比べると、ストーリーの求心力はゆったりしている。

その意味では、渋谷直角氏特有の「圧倒的なディティール感」がさらに際立ち、主人公の日常を浮き彫りにする。これまで渋谷直角氏の作品は「おもしろい反面教師モノ」としてとらえていたのだけど、主人公の目線になるというか、感情移入する読者も多いのではないかと思う。

正直なお話自分自身、主人公の渋井直人のようにはなりたくないなと思ったことがある。ぼくはそれゆえ感情移入してしまったのかもしれない。他の方はどう感じるか。たとえば、こんなホームパーティーとかはしたくないなあというディティール。イメージはこんなかんじ。

自分よりもずっと若い方たち(社員やアシスタントなど)におだてられ、誕生日会という名の交流パーティーを港区の自宅で行う。最初の乾杯から前半の写真タイムまでは主役なのだが、あとは、おにもつ状態。若い子たちは純粋に中年男を祝いたくてきているわけではないのだ。あくまで中年男は交流会のきっかけであり、場所貸し。料理担当。

もうあとは会話にうまく入れず、きもちを切り替えて料理を出したり、片付けをしたり。「みんな楽しんでくれるかなあ」って。会がおひらきになれば、独身ひとりで、ホームパーティーの後片付け。冬だとポカンとあいた広い空間が急にサムく感じてくる。

こんなかんじ。若者としてあなた、そういうパーティーにいったことあるだろ!と言われると、たしかにちかいものはある。

実際本作において、主人公の渋井直人が仕事仲間の送別会の幹事を担当するシーンがあるのだけど、けっこう近い。いま「東京カレンダー」がウェブきっかけに変貌を遂げていて、いつの間にか港区おじさんとか、そんなワードも生むようになってしまっているのだけど、そういう概念がすでにあって、記号として消費されているのは事実。

なにが自分の人生にとっての幸せなのかを、数十年後の自分を透視した上で考えよう、そう思わせてくれる一冊です。自分の好きを大事にしている、いわゆるブロガーさんや、いまっぽい方々にもじつは響く本なのではないかなあって思っている。


引き続き、よろしくどうぞ!